屋根裏(隔離生活)通信

ロックダウンの解除間もない、寝ぼけまなこのフランス・パリから。

ステイホームはツイートを変える

 こんにちは。いつも当ブログを覗いてくださってありがとうございます。皆様がくださった反応のおかげで、長きに及んだ隔離生活を発狂せずに乗り切ることができました。この場を借りて改めてお礼を申し上げます。
とはいえこのブログ、「屋根裏(隔離生活)通信」と銘打ったにも関わらず、発信するのは日常の四方山ごとばかり。これではただの屋根裏ひみつダイアリーだ、何か有用な情報のひとつも提供せねばと常々考えておりました。

そこで今回は一念発起して、日本では未だいかなるメディアも取り上げていない特ダネをお届けしたいと思います。スペインのとある研究チームの専門家たちが成し遂げた新発見をベルギーの報道機関がいち早く記事にまとめたものです。気になるその見出しはというと、





『コンフィヌマン(ロックダウン)が小鳥のさえずる時間帯を変えた』






 コンフィヌマンが、小鳥の、さえずる、時間帯を変えた!




……それでは、記事の中身を見てゆきましょう。



「コンフィヌマンが始まってから、街なかに響く小鳥の声を耳にした人も多いだろう。カタルーニャ鳥類研究所の研究により、鳥たちの行動様式の変化がこのたび初めて実証された。同研究所は都市部の小鳥が以前より早い時間にさえずり始めることを確認したのだ」


ロックダウン下のパリで小鳥の声が聞かれるようになったことについては、このブログでも何度か触れてきました。ヒトの出す生活音が消えたのだから、そのぶん他の音が目立つのは当たり前じゃないの? そんなふうにも思えるのですが、理由は他にもあるというのです。

「他の都市と同様、バルセロナにおいて鳥たちは長らく通勤時間帯に人間が発する音に適応して暮らしてきた。彼らは統計上、田舎暮らしの同種の鳥に比べて遅い時間にさえずり始める。ところがパンデミックの発生によりヒトの活動にともなう騒音が減少して以来、彼らは一日の始まりの数時間を歌に費やすようになった」

なんとまあ、つまり鳥たちが朝活を始めたと! この事実は以下のような方法で明らかにされたといいます。

「学会は都市に生息する鳥16種を選び出し、今年の3月15日から4月13日までその行動を記録した。そして同種の鳥の過去の行動記録データとの比較を行った。過去のデータは都市に住む鳥と田舎に住む鳥の両方について、10年間にわたり同じ季節に採取されたものだ」

 

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その結果をまとめたものが上の図です。
縦軸が正午の値を基準とした鳥のさえずりの増減を、横軸が一日の時間の流れを示します。オレンジ色の帯は過去10年の都会の鳥のさえずりの記録、青い帯は田舎の鳥のそれです。そして赤い帯が、コンフィヌマンの1か月間で記録された都会の鳥のさえずりを表します。こうして見るとなるほど確かに、かつて朝には鳴かなかった都会の鳥たちが、今年に限っては日の出前からしきりにさえずっているではないですか!その曲線は田舎の鳥のそれとほぼ重なるかたちで推移しています。

「『都会で暮らす鳥たちは、平時はあまり朝からさえずらないようです。まるで人間が通勤で起こす騒音と競い合うのを避けるかのように。人間の生活音が鳥たちの歌の妨げになることはすでに知られていましたが、鳥たちはその障害を前にして、さえずる習性に修正を加えていたのです。ですから彼らは今回新たに訪れた静けさに適応しなおしたと言えるでしょう』」鳥類学者のこのような解説で記事は締めくくられています。

 スペインでロックダウンが始まったのは3月14日のこと。つまり鳥たちは環境の変化を即座に感知し、その行動を変化させたことが分かります。変化というより、本能として持ち合わせていた生活リズムを取り戻したというべきかもしれません。

今ではEUの多くの国でロックダウンが解除され、ヒトの騒音はふたたび朝をじわじわと侵食しています。鳥にとってもヒトにとってもストレスのない静かな暮らしがいつか実現できたらいいですね!
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 さて、ここからは余談なのですが、ぼくはこの記事を読んで日本のTwitterにまつわる話題を思い出しました。「#検察庁法改正案に抗議します」というハッシュタグ付きのツイートが何百万件と投稿され、なかでも芸能人の参加が大きな注目を集めたというものです。Tweetとはもともと小鳥のさえずりのことだから、記事とイメージが重なったというわけです。
 ぼくが気になったのは、俳優や歌手が政治的発言をしたことについて「分かりもしない政治の話題に首を突っ込むな」とか「コロナで仕事が減ったからってSNSで目立とうとするな」といった批判が相次いだという点です。彼らももちろん日本という国の主権者なのだし、たくさん納税しているのだろうし、政治を語ってやましい理由はひとつもありません。問題があるとすれば、それはむしろ「芸能人の政治的発言がここまでタブー視されている」ことではないでしょうか?

 ぼくはこの原因の一端が日本のコマーシャル文化にあるのではないかと思います。企業のCMにミュージシャンの新曲がタイアップされたり、人気俳優が出演するのは日本ではとても一般的ですが、世界的に見れば珍しいことです。たとえば適当なフランス人にトヨタがかつて制作したドラえもんの実写版CMを見せたとしましょう。彼らはそこに全身真っ青で首に鈴をつけたジャン・レノの姿を見出し、大きなショックを受けるのです。これは別にドラえもんの再現度が低いからではなくて、文化人である俳優がお金と引き換えに企業や商品の広告塔を務めるということが、彼らの国では一般的でないからです。

それに対して日本の芸能人にとってCMは重要な収入源であり、企業は起用するタレントに特定の思想色が伴うことを嫌います。CMのみならずバラエティ番組などでも敬遠されることでしょう。そうした背景もあって、日本の芸能スターたちは政治的に無色透明であること、鳴かない鳥であることを暗に望まれてきたように思うのです。
 
 そう考えると、「コロナで仕事が減ったから…」という批判は案外的を射ているのかもしれません。芸能を含む社会の営みが停滞したことで束の間しがらみから解放され、その人が生来ごく当たり前に持っていた一個人としての声がふたたび表に現れた、というポジティブな解釈です。ちょうど都会の鳥たちが朝のさえずりを取り戻したのと同じことが、人間にも起きたのなら素敵じゃありませんか!

「影響力のある人間が軽はずみな発言をするべきではない」という批判はたしかに頷ける部分もありますが、今回の改正案に関しては反対を唱えたところで誰かの権利が脅かされるものではなく、その声が社会に悪影響を及ぼすとも想像できません。それよりも影響力のある人が声を上げることで、問題に対する認知が広がり、ひいては専門家の見解に社会の関心が集まるというポジティブな効果のほうが大きかったのではないでしょうか。
感染症にせよ検察庁法にせよ都会の鳥のさえずりにせよ、人間社会にはあらゆる分野を網羅する専門家が生きていて、彼らはその知識と日々の研究の成果を世間に還元する機会を待っています。けれども世間のほうから耳を傾けなければ、その声はとても通りにくいものです。
ぼくが今回カタルーニャ鳥類研究所の大発見に触れることができたのも、都会の鳥たちがしきりにさえずってくれたおかげです。さえずる鳥が現れなければ、彼らが過去10年にわたり収集してきたデータも生きなかったかもしれません。

キジも鳴かずば撃たれまい。
されど、小鳥のくちばし縛るべからず。

余談のほうがずっと長くなってしまいましたが、ステイホームのさなかに生まれたこの新しい「さえずり」の習慣が、今後も途絶えなければいいなと思っています。

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在りし日のパリの小鳥たち。今ごろどこで何しているかな。

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